この記事は2020年に行われた JCCNC(在シカゴ日本商工会議所)セミナー『実録!データの活用によって仕事はどう変わっていったのか?』 の動画を基に、対談形式にてコンテンツ化したものです。
司会 DXを進めるにはまずデータと業務の棚卸しが必要であるという視点をベースに、今回はデータの活用に焦点を当ててお話しいただきます。本日は富士ソフトアメリカの山下様と早乙女様にお越しいただいております。まずは自己紹介をお願いいたします。
山下氏 皆様、本日はどうぞよろしくお願いいたします。富士ソフトアメリカの山下と申します。当社は2015年から活動を開始し、ソフトウェア開発やシステム構築を行っております。2018年4月に赴任し、現在に至ります。
早乙女氏 同じく富士ソフトアメリカの早乙女拓永と申します。私は2015年からアメリカに来ており、システム開発の支援などを担当させていただいております。よろしくお願いいたします。
司会 ありがとうございます。それでは早速、本日のテーマであるデータ活用についてお伺いしていきたいと思います。まず、そもそも「情報」とは何か、というところからお聞かせいただけますでしょうか?
山下氏 はい。このセミナーでは皆さんが業務で使うコンピューター内のExcelやWordファイル、契約書などの紙の書類、さらには熟練者の「職人技」や社員個人の「記憶」や「勘」といったものもすべて「情報」として捉えています。これらはデジタルかアナログかにかかわらず、データとして活用できる貴重なものだと考えています。
司会 なるほど、記憶や勘まで情報なんですね。では、これらの「情報」は企業内のどのような場所に存在しているのでしょうか?
山下氏 情報のありかは本当に様々です。個人が使うコンピューター、会社のサーバー、スマートフォンやタブレット、社員の記憶や勘、さらには各拠点や現場に溜まっている情報、クラウド上のデータ、そして取引先への問い合わせでしか得られないネットワークを介してアクセスできる情報など、多岐にわたります。法律で保管が義務付けられているものの、ほとんどアクセスされない紙の書類の中にも重要な情報が眠っている可能性がありますし、閲覧権限の問題で見られない情報にも活用できるものが含まれているかもしれません。これらの情報は企業内で様々な場所に点在しており、情報としての価値が高いものも多く含まれているため、一度見直していただくのが良いと考えています。実際、情報保管場所に困っている方が多く、アンケートでは76%の方が「見当たらないで困っている」と回答されました。これは当社でも共感できる部分です。
司会 多くの企業が同じような課題を抱えているのですね。では、その「情報」を「データ」として活用することについて、まず「データ」の定義からお願いします。
山下氏 はい。このウェビナーでは「データ」とはコンピューターを使って伝達、解釈、処理に適するように形式化されたもの、つまり電子化されたものと定義しています。これまでお話しした様々な場所に点在する重要な情報をコンピューターが処理できる形にしていきましょうということです。
司会 ありがとうございます。では、そのデータを活用することで、企業にどのようなメリットがあるのでしょうか?
山下氏 データ活用のメリットはいくつかありますが、今回は特に3つのキーワードを覚えていただきたいと思います。 現状把握 企業の様々な状態や状況をデータから見ていくことです。経験や勘に頼らず、データを分析することで現状を「見える化」し、プロジェクトマネージャーや経営層など、それぞれの役職・役目に合わせた見え方で状況を把握できるようになります。 課題への対応 企業活動において課題は尽きませんが、データ活用により課題への対応力が高まり、ミスが減り、対応が早くなります。データ分析によってこれまで見えなかった原因や対策が明らかになるでしょう。「ビジネスチャンスの創出」これは少し大げさに聞こえるかもしれませんが、データ活用によって新しいサービスやビジネスチャンスを見つけることができます。例えば、売上は高くなくても特定の顧客層に強く支持されている商品を発見し、継続するというような判断が可能になります。データ活用は新しい価値を創出することにつながるのです。
司会 現状把握から課題対応、そしてビジネスチャンス創出へと繋がるのですね。このようなデータ活用を支える技術や手法についてもお聞かせください。
山下氏 図にも示していますが、ビッグデータ分析、AI、IoT、DX、ML(機械学習)、クラウド、CRMといった様々なキーワードがあります。これらの手法を使ってデータをあらゆる角度から活用することで、新たな発見、データの可視化(ダッシュボードなど)、業務の高速化、そして最終的には新規ビジネスの創造や新しい価値の創出といった結果が得られます。
司会 なるほど、多くの言葉がデータ活用と関連していることが分かります。具体的な例でイメージを掴ませていただけますでしょうか。
山下氏 はい。ここでは身近な例として「インボイス(請求書)」を取り上げます。インボイスに記載されている文字情報は「情報」であり、これをデータベースで扱えるようにしたものが「データ」だと考えてください。データベースとインボイスは紐づいており、紙のインボイスの情報をデータベースに格納するだけでなく、逆にデータベースにある情報からボタン一つでインボイスを自動生成することも可能です。データは双方向で活用できるのがポイントです。 司会 双方向で活用できると非常に便利ですね。では、このようなデータ活用を始めるにあたり、何から取り組むべきなのでしょうか?
山下氏 最も重要なのはやはり業務の棚卸しとデータの棚卸しです。特にこれまで職人技や経験豊富な社員の頭の中にあったワークフローをフロー図などを用いて可視化する必要があります。どの情報を使って、どの承認を経て、どのタイミングで書類が作成されるのかなどを明確にすることで、オペレーション上の無駄や断絶、ヒューマンエラーが発生しやすい箇所を発見できます。 さらに、データ化した情報の中からどれが重要でどれが不要なのかを見極める「精査」も不可欠です。やみくもに集めるだけでは余分なデータがノイズとなり、正確な情報が引き出せなくなることもあります。また、必要な情報が足りていないケースもあるので、それらを確認することも重要です。
司会 業務とデータの棚卸しによって、現状を把握し、課題に対応し、ビジネスチャンスを掴むサイクルを回していくということですね。それでは、ここからは早乙女様から、具体的な事例についてお話しいただけますでしょうか。
早乙女氏 はい。我々がアメリカで実際にお手伝いしたプロジェクトの実例をご紹介させていただきます。お客様はアメリカ西海岸の食品製造メーカーで、自社で工場と配送網を持ち、製造から配送まで一貫して行っている成長企業でした。システム化やデータ活用へのニーズが非常に高いお客様でした。
司会 当時のシステム環境と、どのような課題を抱えていらっしゃったのでしょうか?
早乙女氏 当時、お客様はMicrosoft Accessを使ったシステムで受発注、配送、請求を管理されていましたが、これはスタンドアロンのシステムでした。会計システムはQuickBooksのデスクトップ版を社内サーバーで利用しており、システムが成長に追いついていない状況でした。棚卸しを行った結果、以下の3つの課題が明らかになりました。
司会 データが属人化し、拠点間の連携も不十分だったのですね。これらの課題に対し、どのような目標を設定し、プロジェクトを進めていったのでしょうか?
早乙女氏 目標は「生産性を飛躍的に向上させられるシステムを構築する」ことでした。プロジェクトは大きく3つのステップで進めました。
アクセスシステムのようなスタンドアロンのものをクラウドへ移行し、複数拠点間でデータ共有ができるプラットフォームを構築しました。会計システムもクラウド化し、受発注システムと連携する仕組みをクラウド上で実現しました。
データ収集基盤ができた後、これまで紙やExcelで管理していたデータもシステム上で管理できるように拡張しました。
さらに管理データを広げ、モバイル端末を導入してペーパーレス化を進ることでより簡単にデータデジタル化を図りました。この段階で、集めたデータを活用するフェーズに着手し始めました。
このようにまずは効率よくデータが集められる基盤を整え、それができて初めてデータ活用に進むという良い流れでプロジェクトは進行しました。
司会 段階的にシステムを改善していったのですね。プロジェクトを進める中で、どのような課題があり、どのように解決されたのでしょうか?
早乙女氏 プロジェクトではいくつかの課題に直面しました。
・成長企業で多忙なため、時間を割くことが難しいケースがありました。
・解決策 現場のマネージャーにプロジェクトのコントロール役をアサインし、業務全体を把握している人材を確保しました。
・新システムに求める機能や要望が多く、仕様を統一することが困難でした。
・解決策 部署間のすり合わせの場を設け、最終的にシステムで達成したい目的を共有し、仕様を決定していきました。
・システムは作って終わりではなく、運用後に改善が必要でした。
・解決策 システム開発後も継続的に改善サイクルを回すことで、より理想に近いシステムへと進化させていきました。
4. 日本とアメリカの商習慣・文化の違いによるギャップ
・日本の開発チームとアメリカの現場との間で、商習慣や文化の違いからくる理解のズレが生じ、現場で使いにくいシステムになることがありました。
・解決策 時間をかけて商習慣や文化の理解を深め、改善していきました。日本側の開発チームの教育も継続的に行っています。
・長年慣れ親しんだシステムからの変更に対し、現場メンバーが抵抗を示すケースがありました。
・解決策 仕様を決める段階から現場担当者にも参加してもらい、意見を聞くことで、「このシステムにすることで自分たちにもメリットがある」ということを伝え、巻き込んでいきました。
司会 これらの課題に対し、様々なアプローチで解決されたのですね。結果として、システム導入によってどのような効果が得られたのでしょうか?
早乙女氏 主な効果は以下の通りです。
司会 ありがとうございます。概念的な説明から具体的な事例まで、大変参考になりました。ここで、いくつかご質問をいただいております。まず、山下様への質問です。インボイスの例で「双方向のデータベースからインボイスに過去の注文を抽出できるのか」という質問が来ています。
山下氏 ありがとうございます。過去の注文を抽出する機能も可能ですが、私が申し上げたかったのは新規のインボイスを発行する際に必要な情報をデータベースから自動で取得してくるということです。例えばインボイスIDのルールに基づいて自動生成したり、金額や関連アイテム名をデータベースから連携させたりすることで、新規作成時の手間を大幅に削減できます。
司会 なるほど、新規作成時の自動入力もデータ活用の重要な側面なのですね。続いてお二人にお伺いしたいのですが、このようなデータ活用のコンセプトやメリットを顧客に伝える際にどのようなアプローチをされていますか?やはり、概念的な話をするのは難しい部分もあるかと思いますが。
山下氏 私の場合、お客様から「何かを自動化したい」といった具体的なキーワードで問い合わせをいただくことが多いです。その際、どのような情報を集めるべきか、どこから手をつけるべきかといった疑問に対し、丁寧にコンセプトを説明した上で、業務フローの見直しからお手伝いしています。
早乙女氏 私はシステム開発に携わることが多いのですが、システム構築当初はデータ活用まで考えていなかったお客様でも、実際にシステムが完成し、データが集まってくると「これを活用したい」というマインドが働くことが多いと感じています。そこで、まずはデータを「見える化」するためにダッシュボードの作成を提案したり、経営的な課題を見つけるための分析を提案したりすることが非常に多いです。データが見えるようになって初めてお客様自身が「これはこんな風に使えるかも」と具体的な活用方法をイメージできるようになるようです。
司会 実際にデータが見えることでお客様自身の気づきが生まれるというのは面白いですね。ただ、早乙女様のお話にもあったように、社内では部署やレイヤーによって求めるものが異なるため、コンセンサスを得るのが難しいという課題もあるかと思います。例えば「生産性の向上」という目標一つにしても、現場と経営層では定義が違うのではないでしょうか?
早乙女氏 まさにその通りです。現場の方にとっての生産性は「いかに簡単に入力できて手間が少ないか」が重要ですが、経営層にとっては「いかに分析しやすいか」「データを別の形で活用しやすいか」といった点がポイントになります。どちらに重点を置くのが会社にとって最も生産性向上に繋がるのか、すぐに決めるのは難しいところです。
山下氏 そのため、ダッシュボードのように数多くのデータの中から必要な情報やその意味を直感的に理解しやすいグラフなどの形で表示する機能を用意したりします。さらに、レイヤーごとに異なるダッシュボードを用意し、経営層には経営判断に必要な数字を、店舗マネージャーには担当店舗の情報を表示するといった工夫も行います。誰がデータを使うのかという点を事前に打ち合わせで詰めることが非常に重要です。
司会 レイヤーごとのニーズに合わせた表示が必要なのですね。関連してチャットで質問が来ています。「早乙女さんの説明にあった『適切な人材のアサイン』の観点で、Business Operationsというポジションは日系企業やアメリカの企業の中でまだ少ない印象でしょうか?」という質問です。ワークフローやオペレーションを俯瞰して見られる人材、というイメージでしょうか。
早乙女氏 はい、その通りです。日系企業では会社規模にもよりますが、中小規模の企業ではまだそういった専門のポジションは少ない印象があります。アメリカの企業については一概には言えませんが、やはり多くはないかもしれません。
山下氏 確かに、日系企業ではその「俯瞰して見れる人材」が「管理本部の誰か」という形になりがちですが、その人がオペレーションの細かいレベルまで理解しているかというと、また別の話になります。アメリカの企業では一人に多くの責任を負わせるのではなく、担当ごとに責任と権限を明確に与える傾向が強いように感じます。 前回のセミナーでは、アメリカの企業でCDO(Chief Data Officer:チーフデータオフィサー)という役職が増えているという話もありました。これはビジネス戦略のかなり上流から、会社全体でデータをどう活用すべきかという方針を決める役割です。日系企業ではまだそこまでデータ活用の重要性を戦略的に捉えているケースは少ないかもしれません。
司会 CDOはまだ日本企業ではあまり聞かない役職ですね。もう一つ質問です。「クラウドで複数の異なるプラットフォームを利用する場合の連携はどのように行うのでしょうか?」という質問です。
山下氏 ありがとうございます。当社のお客様でも、複数のプラットフォームを連携させたいというご要望は多々あります。アメリカでは一つの包括的なツールで全ての業務を賄うというよりは、各機能に特化した複数のツールを「パッチワーク的」に組み合わせて使うケースが多いです。例えば電子署名にはA社のツール、データストレージにはB社のERPシステム、といった形でAPIなどを活用して連携させています。
司会 日本とは異なるツール利用の文化があるのですね。データ活用について、最後に日本とアメリカの企業文化の違いについて、お二人の視点からコメントいただけますでしょうか?
山下氏 日本の企業では、「何のために集めている情報かわからないけれど、とりあえず仕事だから作業としてデータを入力しなければならない」という状況がよく見られます。例えば営業が外回りから戻った後、膨大な情報を複数のシステムに入力するが、その使い道が明確でないといったケースです。「手段が目的化してしまっている」、と言えるかもしれません。そのため、いざシステム改善となっても、長年の慣習が染み付いてしまっていて、オペレーター自身が必要な情報と不要な情報を区別したり、「この作業は自動化できるはず」といった疑問を提起したりすることが難しい傾向があると感じています。
一方、アメリカではオペレーターの方でも「なぜこの情報が必要なのか?何に使うのか?」とすぐに疑問を呈することが多いです。その声がシステム改善に反映され、不要な情報を削除したり、より効率的な運用に繋げたりといったことが行われやすい印象です。
早乙女氏 システム構築の面でも違いがありますね。日本ではスクラッチで自社独自のシステムを構築するケースが多いですが、アメリカではパッケージ製品が豊富に揃っているため、山下も言ったようにパッチワーク的にそれらを繋ぎ合わせてシステムを構築するアプローチが多いです。その方が早く、安価にシステム導入を進められるというメリットがあります。
司会 なるほど、日本は「手段が目的化」しやすく、アメリカは「目的を明確にして大胆に改善する」文化があるということですね。そうすると、日本でシステムを導入する際、現場からのヒアリングが難しく、本当に効果的なシステムにならないという懸念もあるかと思いますが、いかがでしょうか?
山下氏 そうですね、おっしゃる通り、日本企業では「実態としてどこを改善すべきか」が分からず、既存の機能を「とりあえず残しておこう」と拡大していく傾向があるため、見直しや抜本的なトランスフォーメーションに至りづらいという問題があります。せっかく新しい機能を追加しても、古い、本来不要な機能も残ってしまい、結果としてちぐはぐなシステムになってしまう、というケースを何度も見てきました。
司会 それは悩ましいですね。完璧なシステムは存在しない中で、どのように導入を進めていくべきでしょうか?
山下氏 これも早乙女の話とリンクしますが、ステップバイステップで、最終的に良いものになるための手順を決めていくことが重要です。一度にすべてを解決しようとせず、まずは実現したい部分を明確にし、導入後もオペレーションで補いつつ、継続的に改善していくバランス感覚が大切です。システムに100点満点はないので、「誰を、どこまで満足させるか」というゴールを明確に線引きすることが重要だと考えます。
早乙女氏 パッケージ製品のカスタマイズには限界があるので、ある程度は業務を製品に合わせる必要が出てきます。しかしその半面、新しい製品やサービスが出た時に乗り換えやすいというメリットもあります。自社の業務に完全に合わせたシステムを作る方が効率が上がるパターンもあれば、既存のパッケージに業務を合わせていく方が良いパターンもあり、お客様によってアプローチは異なります。
司会 ありがとうございます。また、日本では人材の流動性が低いですが、アメリカではシステムが使いにくいと社員が辞めるといった話も聞きます。このような人材流動性の違いもシステム導入に影響を与えるのでしょうか?
早乙女氏 その違いは大きいかもしれませんね。以前いた会社では基幹システムを刷新した際に社員の何十パーセントかがいなくなりましたが、新しい人が入ってきて普通にシステムを使っていました。そう割り切って考えれば、案外できることなのかもしれません。
司会 非常に示唆に富むお話でした。山下様、早乙女様、本日は貴重な講演と対談をありがとうございました。
山下氏 こちらこそ、このような機会をいただき、誠にありがとうございます。我々はデータ活用を通じて皆様の企業価値を再定義し、加速させるパートナーとなることを目指しています。今後もウェビナーを独自開催していく予定ですので、もし「こんなテーマで話してほしい」「こんな事例はないか」といったご意見やご要望がございましたら、お気軽にご連絡ください。本日のスライドも提供可能ですので、ぜひご活用ください。
早乙女氏 本日は貴重な機会をいただき、誠にありがとうございました。私自身のこれまでのシステム開発の経験が皆様のお役に立てたなら幸いです。システム構築に関して何かご相談があれば、遠慮なくお問い合わせいただければと思います。
司会 ありがとうございました。JCCNCの「デジタルノススメ」シリーズは今後も継続して開催していく予定です。皆様からいただいたアンケートやご意見を参考に、さらに皆様の課題解決に繋がるコンテンツを提供してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。本日は誠にありがとうございました。