システム導入プロジェクトでは、国や業種を問わず、共通して起こりやすい失敗があります。特に業務系システムは日常のオペレーションや経営判断に直結するため、導入時の失敗が大きな損失につながることも珍しくありません。ここでは、私たちが実際に経験したアメリカでの失敗や、周りで起きている失敗などを共有し、その背景について整理してみたいと思います。
「何のためにシステムを導入するのか」が曖昧なままプロジェクトが進むケースは失敗しやすいと言わざるを得ません。たとえば「業務効率化のため」と言っても、具体的にどの業務をどの程度効率化するのかを定量的に定義していなければ、導入後に測定、評価が出来ませんし「思ったほど改善されなかった」と不満が残る可能性が高いものです。
これは BA(ビジネスアナリシス) が不足していたことが一因と言ってよいかと思います。要件を明確に整理し、ステークホルダーと合意形成を行うプロセスが不足すると、ゴールが共有されずに迷走するリスクが高まってしまいます。
「在庫管理が行えていないからシステムを入れたい」といった要望があっても、真の課題は「業務フローが複雑すぎる」「拠点間のデータ連携が不十分」といった別の部分にあることも少なくありません。
このように 課題の根本原因を特定せず、表面的な要望に引きずられる と、システムを導入しても課題解決につながらず、かえって業務が複雑になってしまうことさえあります。これも(1)で触れた「ビジネスアナリシス(BABOK®で定義される手法)」が不足している典型例と言えます。
現場・経営層・日本本社、システムベンダーの間で意見が食い違い、調整が不十分なまま導入を進めてしまうケースもよくあります。現場は「早く便利なシステムが欲しい」、経営層は「費用対効果を最大化したい」、本社は「グローバル標準に合わせたい」と、立場によって優先度が異なるためです。
合意形成を疎かにすると、導入後に「現場が使ってくれない」「本社が承認してくれない」といった事態を招きます。プロジェクト初期にステークホルダー間でしっかり意見を擦り合わせることが不可欠です。
「高品質・低コスト・短納期」を同時に実現することは現実的に困難です。しかしユーザーがこのトレードオフを十分に理解していないと、後から「予算超過」「納期遅延」「品質不満」が表面化することになります。
これは『アメリカのシステム開発で注意すべき「契約」への理解と姿勢』でも述べた「スコープの明確化」や「SLAの設定」とも関わります。どこに優先度を置くのかを契約時に合意していなければ、後で「やってくれると思った」「契約にないからやらない」と対立してしまうことになります。
クラウドサービスやERPパッケージの導入を「流行だから」「他社が使っているから」と決めてしまうのもよくある失敗です。システムに業務を合わせられるなら効率化につながりますが、業務の方が複雑でシステムに合わない場合、「結局エクセルや手作業に戻る」という結果になりがちです。
これは『サービスデスクの重要性(アフターフォロー・保守)』でも触れた通り、導入後に利用者の声を吸い上げ、改善を継続できる仕組みがないと顕在化しやすい課題と言えるでしょう。
システム開発においては、契約形態や責任範囲が曖昧だとトラブルに発展します。「やってくれるだろう」「わかっているだろう」という思い込みで進めた結果、期待値と成果物が食い違い、最悪の場合は訴訟につながることもあります。
『アメリカのシステム開発で注意すべき「契約」への理解と姿勢』で紹介したように、MSA・SOW・SLAといった契約文書に基づいて、スコープと責任範囲を明確にしておくことが欠かせません。
システムは導入して終わりではなく、業務や市場環境の変化に合わせて改善を続けていくことが重要です。しかし、導入時の計画に「改善サイクル」が含まれていないと、システムが次第に現場の実態から乖離し、使われなくなってしまいます。
『サービスデスクの重要性(アフターフォロー・保守)』で触れたITILの考え方では、サービスデスクは単なる障害対応ではなく「改善を継続するための中核機能」です。導入後の改善体制をどう構築するかを、契約時点で確認しておくことが失敗を防ぐカギとなります。
業務系システム導入で起こりやすい失敗は下記のように整理できます。
これらはいずれも、事前のビジネスアナリシスと合意形成、契約内容の明確化、導入後の改善活動 を徹底することで回避可能です。
当社は、日米両方の文化と国際標準(BABOK®, PMBOK®, ITIL)を踏まえ、こうした失敗を未然に防ぐための実践的な支援を行っています。システムを導入する際は「導入後も安心して伴走してくれるパートナー」を選ぶことを強くお勧めします。
「IT業務の頼れるパートナー」にお悩みの企業様はぜひ当社にご相談ください。