在米日系企業の皆さんと話をしていると、必ずといってよいほど話題に上るのが「日本本社との認識のギャップ」です。本社からは「現地の状況がよく見えない」という声があり、現地からは「本社に説明する時間も人材も足りない」という悩みが聞かれます。この溝はどこから生まれるのでしょうか。
私自身が10年間現地法人を運営して感じている大きな要因のひとつは、物理的な距離と時差です。アメリカと日本の間には十数時間の時差があり、会議を設定するだけでも双方に負担がかかります。そのため定期的な意思疎通が難しく、本社は現地の変化をタイムリーに把握できません。
一方、現地法人は「人材不足」や「業務効率化の必要性」を慢性的に抱えており、限られたリソースの中で本社への十分な報告を行う余裕がないのです。これは比較的リソースを確保しやすい日本本社には伝わりにくい部分かもしれません(JETRO 2023調査)。
次に、文化やビジネス慣習の違いがあります。日本企業では計画を綿密に立て、合意形成を重視する傾向があります。一方、アメリカでは顧客、取引先、従業員のいずれも「スピード」を優先する傾向があります。
この違いはシステム開発にも表れます。アメリカ現地では業務の進め方を柔軟に変える前提でシステム要件(システムに必要な機能や条件を整理する工程)を考えるのに対し、日本本社は「正確で安定した運用」を重視し、要件定義の段階から噛み合わないことが少なくありません。
さらに言えば、日本本社が大企業であっても、現地法人は比較的小規模であることが多く、この点も認識のずれを生む背景になっています。
大企業の本社側ではシステム導入に伴う経済的影響や業務全体への波及範囲が大きいため、リスクを回避するために慎重にならざるを得ません。そして、十分な検討を行うだけの人材や予算といったリソースを確保することも可能です。
一方、現地法人は限られた人員と予算で運営されている場合が多く、システム導入だけにリソースを割くことは難しいのが実情です。そのため「いかにスピーディに導入まで完了させるか」という点を強く意識せざるを得ません。こうした姿勢の違いはソリューション(課題解決の手段)の選択やベンダーの選定にも反映され、本社と現地法人の意見が一致しない状況を生み出すことがあります。
この優先度の違いがギャップを深める要因となります。
加えて、法規制の違いも大きな要因です。米国では州ごとに規制が異なり、税務や労務、データ保護などの要件が複雑です。本社が日本のルールに基づいて判断しようとしても、現地での運用に支障をきたす場合があります。特にシステムは業務や法務と密接に結びついているため、現地事情を理解しなければ適切な判断は下せません。
本社側はリスクを最小化するために慎重なレビューを望みますが、現地側は限られたリソースの中で本社に任せたい気持ちがありつつも、現地事情に即したシステム導入を求める――こうしたジレンマがしばしば発生します。
このように「距離・時差・文化・規制」といった複数の要因が絡み合い、本社と現地の間にギャップを生み出しています。そして現地側は慢性的に人材が不足しているため、「わかってほしいが十分に説明できない」という状況に陥りがちです。結果として、本社の意思決定が現場の実情から乖離し、システム開発や運用の現場にしわ寄せが及ぶことになります。
では、どうすればこのギャップを埋められるのでしょうか。ひとつの解は第三者としての専門ベンダーを活用することです。現地事情を理解し、本社との橋渡し役を果たすことで、情報の非対称性を緩和できます。
たとえば当社はアメリカで10年以上の経験を積み、現場と本社の両方の視点を理解しながら、日米双方の経営層にも伝わりやすい形で情報を整理してきました。特に重要なのは「現地の課題を経営の言葉に翻訳する」ことです。
現場では「システムが遅い」「入力が大変」といった声が出ますが、本社にそのまま伝えても理解されません。これを「業務効率が◯%低下」「残業コストが年間△△ドル増加」といった経営指標に結びつけて定量的に説明することで、本社側も判断しやすくなります。
また、コミュニケーションの仕組み自体を設計することも有効です。定例会議の頻度や資料の形式、報告の優先順位をあらかじめ定めておくことで、無用なすれ違いを防げます。本社と現地の双方にとって「話しやすいルール」を設けることは、結果的に業務全体の効率向上につながります。
結局のところ、本社と現地法人のギャップを完全になくすことはできません。物理的・文化的な違いがある以上、同じ目線に立つのは不可能だからです。しかし、そのギャップを管理し、影響を最小化することは可能です。そのためには、現地事情を理解しつつ本社に説明できるパートナーを持つことが、現実的な解決策の一つだと考えています。
「本社とのギャップ」にお悩みの企業様はぜひ当社にご相談ください。