2025.11.14
  • 開発現場から

AIが仕事の “めんどくさい” を全部引き受けたら?|中島 × 早乙女 対談

AIが仕事の “めんどくさい” を全部引き受けたら?|中島 × 早乙女 対談|富士ソフトアメリカ

前回の対談『AIが変える仕事のカタチ|中島 × 早乙女 対談』 では、生成AI¹が単なる業務効率化ツールではなく、「人と組織の自立を支える技術」へと変化していることを軸に議論しました。AIが仕事を奪うという悲観的な見方ではなく、人が思考や判断に使える余白を取り戻し、より高い価値を発揮できるようになるという “人間中心の進化” がテーマでした。また、在米日系企業が直面する人材不足という大きな課題に対し、AIが作業負荷を減らし、知的生産を後押しする“現実的な解決策”になりつつあることも確認できたと思っています。

今回の対談は、その続編として「実際にAIを使うことで仕事はどう変わったのか?」というリアルな変化に焦点を当てています。特にプロジェクトマネジメント² や要件定義³、資料作成など、私たちの業務中でも負荷が大きかった領域で、AIが何を変え、どんな価値をもたらしているのか。さらには「AIの限界」「エージェントの扱い方」「業務にAIを組み込む際の注意点」など、実践している早乙女だからこそ語れる深い論点にも踏み込んでいます。

本稿は、前回の “AIの位置づけ” から一歩進み、「AIとともに働く時代の実務」がどう立ち上がっているのかを追体験できる内容になっています。

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中島 恒久
COO
2004年に永住権に当選しアメリカへ移住。日本時代のインターネットプロバイダーでのサポート業務経験を活かしシステム開発会社を起業。その後、表情心理学系スタートアップの立ち上げへ参加。食品卸企業にてオペレーション部門、倉庫・物流部門の責任者を務めた後、2015年にFUJISOFT America 設立に参加。2017年より現職COO。MBA、ITIL4 Foundation、ECBAを取得。法人営業、管理会計、ビジネスアナリシス、プロセス改善を得意領域としている。
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早乙女 拓栄
Solution Engineer and Project Manager
大学院にて画像認識を研究。2000年に富士ソフトに入社。携帯向けソフトウェアの開発および評価業務に従事後、インド、タイ、中国において同社のグローバルビジネス展開に尽力。2012年にはソウル支店の設立に尽力、2015年より富士ソフトアメリカに赴任。アメリカにてシステム開発ビジネスを立ち上げ、エンジニアリングチーム率いる。

「AIが人の仕事を奪う」は本当か?

中島  前回の対談は生成AI¹ は単なる業務効率化ツールではなく、人と組織の自立を支える技術になりつつある、という話でまとめました。最近は「AIが人の仕事を奪う」という言説はよく聞きますが、私たちはむしろAIによって人が考える余白を取り戻し、人にしかできない価値創造に時間を割けるようになると考えています。結果的に人の価値はむしろ上がるとポジティブに捉えています。

早乙女 私も同じ考えです。AIが人手を取られる作業を代わってくれることで、対話や思考など、本来の価値に時間を使えるのは大きいと思っています。

AIの進化がもたらす “仕事の作り方” の変化

中島 最近はAIの進化によって、仕事の進め方自体が大きく変わりつつあります。私たちはAIを毎日の業務で自然に使うようになっていますが、AIを使うことで処理速度もアウトプット⁴ 品質も以前では考えられなかったレベルが標準になりつつあります。このあたり、早乙女さんは当社の中で最も使いこなしていると思うので、具体的にどう変わったと感じているかを教えてください。

早乙女 特に大きいのはプロジェクトマネジメント² やシステム開発です。これまでは計画書を1から作り、ガントチャート⁵ を作って、リスクを洗い出して…と資料作成に大きな時間を使っていました。いまは多くの基礎作業をAIに任せられるので、“考える時間” に集中できます。
要件定義³ でも同じで、ヒアリング内容と目指すアウトプット⁴ を指示すれば、まずドラフトがすぐに出てきます。それを見ながら追加のケースを検討したり、一歩先の議論に入れたりする。資料作成にかける時間が4時間 → 1時間未満になることも珍しくありません。
ただ、その分 “頭を使う時間” は増えています。同じ8時間働いても、以前より集中し考える時間が増えているので疲労はむしろ増えていますね。ですが、価値ある時間の使い方ができている実感があります。

サンクコスト⁶ の低下が意思決定を軽くする

中島 僕も同感で、以前は「記憶・調査・作業処理」を全部自分で背負う必要がありました。膨大な労力がかかるので、資料を作り終える頃には「仕事が終わった」気になってしまう。でも本来はアウトプット⁴ ができたタイミングこそがスタートなんですよね。
AIが入ることで “負荷の重かった前半部分” を一気に軽くできるので、アウトプット⁴ を見て判断する余力が生まれる。これは大きな変化です。

早乙女 最初の叩き台を作る負担が本当に減りました。プロトタイプ¹⁰ も最初からすぐ出てくるので議論が始めやすい。サンクコスト⁶ が低いので「やっぱり直したい」が言いやすく、作り直しが心理的に軽いです。

中島 10時間かけて自作した資料なら、否定されるとつらいですが、AIが作ってくれたものならすぐやり直せる。24時間動いてくれる優秀な相棒が複数いる感覚がありますね。

AIの “コンテキスト⁷ 疲れ” と特性理解の重要性

中島 一方で、生成AI¹ において長くスレッド⁹ を続けていると、指示に対して急におかしな回答になったり、内容が欠けたりすることがあります。何度修正依頼をしても全体が壊れたり。これは何なのでしょう?

早乙女 最近注目されている「コンテキストエンジニアリング⁸」の問題です。AIにも “認知負荷” のようなものがあり、扱う情報量が限界に近づくと性能が落ち、誤動作しやすくなります。そういうときは人間と同じで “リセット” が必要です。スレッド⁹ やコンテキスト⁷ を整理すると急にパフォーマンスが戻ります。特に長文や大規模資料で顕著になります。

AIエージェント¹¹ の台頭と“チーム化”という発想

中島 最近は“エージェント”という言葉をよく聞きますが、実際どう活用していますか?

早乙女 私は4〜5体のエージェント¹¹ を常に動かしています。各エージェント¹¹ のアウトプット⁴ を人間がすべてレビューするのは非現実的なので、エージェント¹¹ 同士でレビューさせる仕組みを構築しています。例えば、資料を作るエージェント¹¹ → レビューするエージェント¹¹ →再生成するエージェント¹¹、という流れを作り、最後だけ私が確認する。これは「チームを作り、ディレクションを与えて動かす」感覚に非常に近いです。
AIを “個体” ではなく “組織” として扱う段階に入ったと言えます。

能力格差と “キャズム¹² 前夜” としての今

中島 SNSを見ると「みんながAIを使いこなしている」ように見えますが、実際にはそこまでできる人はごく一部ですよね。

早乙女 本当にそうです。情報に触れている人と触れていない人の差は大きく、社会全体はまだキャズム¹² の手前です。ただ、きちんと使えば “考え、判断し、行動するまでの速度” が劇的に向上します。

中島 この記事を読んでくださっている方も「どこから始めればいいのか」と感じると思いますが、まずは私たちに壁打ちレベルで良いのでご相談いただけると、具体的なAI設定や選定も含めて最短で効果が出せると思います。

次回予告:AI時代の「データ分析¹³」を深掘り

中島 次回はデータ分析¹³ の話を深掘りしましょう。私は  “分析”という言葉が非常に曖昧に使われていると感じています。本来は集計ではなく、整理・視点づくり・仮説構築まで含めて分析です。そのプロセスは従来、専門家でなければ難しかった。しかしAIに「どう分析すべきか?」と聞けば、分析方針や視点まで提示してくれるようになりました。これは本当に大きな進化です。

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「分析」という言葉の解像度を上げる

早乙女 はい。次回はそのあたりをより具体的にお話しできればと思います。

 

まとめ:AIは “チームの一員” として機能する段階に

今回の対談ではAIの進化が「仕事の質」と「働き方」にどのような変化をもたらしているのかを、実務レベルの視点で掘り下げました。特に印象的だったのは、AIが作業負荷を軽減したことで、人間が考える・判断する・構想するといった “本来の知的活動” により多くの時間を割けるようになったことです。これは単なる効率化ではなく、業務全体の構造そのものが変わり始めていることを示しているのではないでしょうか?

一方で、AIにはキャパシティの限界やコンテキスト⁷ の扱い方といった「特性理解」が不可欠であり、まだまだ万能とは言えません。しかしその特性を理解し、エージェント¹¹ 同士の連携や適切なプロンプト¹⁴ 設計を組み合わせることで、AIは “人が指揮するチームの一員” として機能する段階に入っています。これは組織運営やプロジェクトマネジメント² のあり方さえ変える可能性を秘めていると私たちは考えています。

実際のところ、AIを使いこなす人と使えない人の差は既に大きく開き始めています。しかし同時に、多くの企業がまだキャズム¹² の手前にいることも事実で、どこから手をつければ良いか分からないという声も多いのが現状です。だからこそ、まずは壁打ちレベルの相談でも構わず、一歩踏み出すことが重要だと感じています。

次回はAIの活用領域の中でも特にインパクトの大きい「データ分析¹³」をテーマに、より具体的な活用方法と事例を掘り下げていきます。AIが分析の “前提” をどう変え、非専門家でも高度な洞察に近づける時代がどう開かれているのか、その本質に迫ります。ご期待ください。

 

注釈

1. 生成AI大量のデータを学習し、人間の指示(文章・画像など)に応じて新しい文章・画像・プログラムコードなどを自動生成するAIのこと。ChatGPTなどが代表例。

2. プロジェクトマネジメントプロジェクトの目的達成に向けて、スコープ(範囲)・品質・コスト・スケジュール・リスク・人員などを計画・管理・調整するマネジメント手法。

3. 要件定義システム開発などで、「何を実現すべきか」を整理して仕様としてまとめる工程。業務内容・利用者のニーズ・制約条件などを整理し、設計の前提となる。

4. ガントチャートプロジェクトのタスクを横棒のバーで表現し、開始日・終了日・順序関係などを可視化したスケジュール表。進捗管理でよく使われる。

5. アウトプット仕事やプロセスの結果として出てくる成果物のこと。資料・レポート・提案書・分析結果などを指す。

6. サンクコスト(埋没費用)すでに支出してしまい、回収できないコストのこと。時間や労力も含めて、「もったいないからやめられない」と判断を歪める要因になりやすい。

7. コンテキスト文脈や背景情報のこと。AIにとっては「今までの会話内容」「前提条件」「共有している情報」のまとまりを指す。

8.コンテキストエンジニアリングAIが正しく動くように、どの情報をどの順番・どの形で文脈(コンテキスト)として与えるかを設計・調整する考え方や技術。

9. スレッドチャットツールやAIとの対話で、ひと続きの会話のまとまりを指す単位。1つのテーマごとにスレッドを分けることで、文脈を整理しやすくなる。

10. プロトタイプ製品やシステムの試作品・たたき台のこと。最終版の前に、仕様やイメージを確認するために作る初期バージョン。

11. AIエージェントあらかじめ与えられた役割やルールに沿って、AIが自律的にタスクを実行する仕組みやプログラム。複数のツールやシステムを組み合わせて動く場合もある。

12.キャズム新しい技術や製品が、先進的なユーザー層から一般ユーザー層へと普及する際に生じる“溝”を指すマーケティング用語。多くの技術がこの段階で普及に失敗するとされる。

13.データ分析単なる数値の集計だけでなく、データを整理・可視化し、傾向や因果関係を読み解いて、意思決定や施策立案につなげる一連のプロセス。

14. プロンプト(プロンプト設計)AIに対して与える指示文や質問のこと。プロンプト設計とは、「どんな情報を、どんな形式で、どのように指示するか」を工夫して、望ましい回答を引き出す技術やノウハウ。

 

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中島 恒久
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COO
中島 恒久
日本時代には、インターネットプロバイダーでのサポート業務や、コールセンター向けFAQシステムの構築を担当。2004年に永住権を取得してアメリカへ移住し、システム開発会社の起業や、大学発の表情心理学系スタートアップの立ち上げに携わった。その後、食品卸企業にてオペレーション部門および倉庫・物流部門の責任者として業務改善と組織運営を率いる。2015年に FUJISOFT America の設立に参加し、2017年より現職。グロービス経営大学院にてMBAを取得し、ITIL4 Foundation・ECBAなどの資格も保有。法人営業、管理会計、ビジネスアナリシス、プロセス改善を得意とし、幅広い経験を活かして事業運営をリードしている。

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