2025.09.23
  • 経営とIT

アメリカのシステム開発で注意すべき「契約」への理解と姿勢

「契約」という重要なテーマ

システム開発において「契約」は極めて重要なテーマです。技術力やプロジェクトマネジメントも成功の要素ですが、それ以上に契約段階での合意形成が不十分であれば、後々のトラブルを避けることができないからです。特にアメリカは契約社会であり、口頭の合意や「暗黙の了解」が通用しないため、在米日系企業にとっては大きな注意点となります。そして、それはアメリカである以上、日系のベンダーとの取引であっても同様です。

スコープを明確にすることの重要性

トラブルの多くは「スコープ(契約に含まれる作業範囲)」を巡って発生します。ユーザー企業側は「これくらいやってくれるだろう」と期待し、ベンダー側は「これくらい分かっているだろう」と想定してしまいがちです。

しかし、この思い込みは非常に危険です。ユーザーは「期待と違う」と不満を抱き、ベンダーは「契約に書かれていない」と反発し、両者の関係が悪化します。通常、スコープは文書化されていますが、それを読み込まずに署名したり、不明点を確認せずに進めてしまうと、最悪の場合は訴訟に発展します。

実際、米国の訴訟事例でも「システムが期待通りに動かない」というユーザー側の主張と、「契約上の責任は果たした」というベンダー側の反論が対立し、長期の裁判に発展するケースが報告されています。Gartner社の調査でも、ITプロジェクトの失敗要因の上位に「契約・スコープの不明確さ」が挙げられています(Gartner)。

契約に関わる主要な用語

システム開発契約では、以下の基本的な契約形態や用語を理解しておく必要があります。

MSA(Master Service Agreement/基本契約)

長期的な取引の枠組みを定める契約。支払い条件、秘密保持、責任範囲などを規定。

SOW(Statement of Work/作業範囲記述書)

案件ごとの詳細を定める文書。作業内容、成果物、納期、責任分担を明記。

請負契約(Fixed Price Contract)

ベンダーが成果物の完成責任を負う契約。納期と品質の保証が必要。

準委任契約(Time & Materials Contract)

ベンダーは「適切に作業を行う義務」を負うが、成果物の完成責任は負わない契約。

再委託(Subcontracting)

ベンダーが第三者に業務の一部を委託すること。契約によっては禁止や制限が設けられることが多い。


これらは専門的に見えますが、理解せずに契約すると「期待していた責任が果たされない」という状況に陥りやすいため、基本的な意味を押さえておくことが不可欠です。

SLA(サービスレベル合意)の重要性

ここに加えて重要なのが SLA(Service Level Agreement/サービスレベル合意) です。SLAとはシステムやサービスの提供にあたり「どのレベルまで品質を保証するか」を明記した取り決めのことです。

たとえば稼働率(稼働時間を99.9%以上にするなど)、応答時間、障害対応の優先度や復旧時間などを数値で定義します。アメリカではSLAを契約に組み込むことで、ベンダーの責任範囲を明確にし、ユーザー側も「どの程度のサポートを受けられるのか」を客観的に把握することが一般的です。

逆にSLAがないと、障害発生時に「どこまで対応すべきか」を巡って認識のずれが生まれ、深刻なトラブルにつながる可能性があります。もしベンダーからSLAが提示されない場合は必ず要求することを推奨します。

アメリカにおける契約文化

良く知られている通り、アメリカは契約社会です。契約書に記載された内容が絶対的に優先され、日本のように「関係性を重視して柔軟に対応する」という文化は基本的には通用しません。「契約にないことは行わない」という姿勢が原則になりますが、これは決して冷たい対応ではなく、双方にとって公平性と透明性を確保するための仕組みであると言えます。

ユーザーが契約内容を十分に理解しないまま署名してしまうと、「契約に書いていない」という理由でベンダーから要望を突っぱねられるリスクがあります。しかし、ベンダーも「契約外だから対応しない」と言い張るだけでは長期的な信頼関係は築けないと当社では考えています。

当社では契約内容をお客様に丁寧に説明し、「このSOWにはどこまで含まれるか」「成果物の完成責任は誰が負うのか」を理解していただくことを重視しています。契約は単なる防御のための文書ではなく、ユーザーとベンダーが同じ方向を向いて進み、ゴールへ到達するための共通言語だと考えているからです。

知財・損害賠償・機密保持への配慮

さらに重要なのは、契約の中で定められる以下の条項です。

知的財産権(IP)の帰属

開発したソースコードや成果物の所有権を誰が持つのか。

損害賠償の範囲

不具合や遅延が発生した場合に、ベンダーがどこまで責任を負うのか。

機密情報の取り扱い

ユーザーの業務データや従業員情報をどのように守るのか。

これらは特に訴訟リスクが高いため、アメリカでは弁護士と連携しながら慎重に進めることが不可欠です。当社自身も、契約の各条項については法務の専門家と協議を重ね、お客様にとって不利益が生じないよう配慮しています。

まとめ

システム開発における契約は単にリスクを避けるためのものではありません。スコープやSLAによって「何をどこまで行うのか」を明確にし、責任範囲を定めることで、ユーザーとベンダーが安心して協力できる基盤を作るものです。

ユーザーの「やってくれるだろう」とベンダーの「わかっているだろう」を排除し、契約を共通言語として活用することが、両者を幸せにする唯一の道だと私たちは考えています。そして、知財・損害賠償・機密保持といった重要条項については、必ず法律の専門家と相談しながら慎重に進めることを強くお勧めします。

「アメリカ現地でのシステム開発」にお悩みの企業様はぜひ当社にご相談ください。

 

 

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中島 恒久
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COO
中島 恒久
2004年に永住権に当選しアメリカへ移住。日本時代のインターネットプロバイダーでのサポート業務経験を活かしシステム開発会社を起業。その後、表情心理学系スタートアップの立ち上げへ参加。食品卸企業にてオペレーション部門、倉庫・物流部門の責任者を務めた後、2015年にFUJISOFT AMERICA設立に参加。2017年より現職COO。MBA、ITIL4 Foundation、ECBAを取得。法人営業、管理会計、ビジネスアナリシス、プロセス改善を得意領域としている。
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