2025.12.19
  • 経営とIT

業務改善はなぜ進まないのか?システム導入の「その先」にあるもの

業務改善はなぜ進まないのか?システム導入の「その先」にあるもの

業務改善とは何なのか?

ここ数年、私は「業務改善とは何なのか」という問いを、繰り返し考えています。

業務改善の文脈で語られることの多い施策の一つが、システムの導入です。しかし、システム導入はあくまで業務改善の手段であって、目的ではありません。これは多くの方が頭では理解していることだと思います。

それでも、実際のプロジェクトの現場では、

「何としても作り切らなければならない」
「まずはリリースしなければならない」

という空気が支配的になる瞬間があります。

特に、長期間にわたる大規模なシステム開発や導入プロジェクトでは、いつの間にか「システムを完成させること」自体が目的になってしまう。その結果、本来目指していたはずのビジネスの成功や、業務の改善、業務効率の向上といったゴールが、少しずつ視界の外に追いやられていきます。

私たちはこれまで、多くのお客様に対してシステム開発やシステム導入のサービスを提供してきました。その中で強く感じているのは、お客様が本当に求めているのは「システム」そのものではなく、「仕事がより良く回る状態」だということです。言い換えれば、その状態を目指すことこそが業務改善であり、システムはその一部に過ぎない、ということです。

業務改善はなぜ進まないのか?

では、なぜ業務改善は思うように進まないのでしょうか?

多くの方が経験されている通り、業務改善は決して簡単なものではありません。多くの企業で日々「業務改善を考えよう」「現場で改善案を出そう」という掛け声が上がっていると思います。アメリカでも、日系企業ではこの役割が現場のメンバーに委ねられるケースをよく目にします。

私自身、前職の食品卸企業で働いていた頃、事務や倉庫業務の改善を経営層から求められた経験があります。当時の私の肩書きはアシスタントマネージャー。管理職ではありましたが、業務改善について体系的に学んだことはありませんでした。

既存の業務については、他の誰よりも詳しいという自負はありました。

しかし、「既存の業務(As-Is)を知っていること」と、「あるべき姿(To-Be)を描き、業務を改善できること」は、まったく別の話です。

今でははっきり分かるのですが、当時の私はそれが分からないまま、ひたすら努力を続けていました。残業時間の削減、出荷ミスの軽減、倉庫の衛生状態の改善などに取り組み、一定の成果は出たと評価もされました。

その一方で、

「このやり方で正解なのか?」
「どこまでやれば十分で、効果をどう測ればいいのか?」

という問いに答えられないまま、ただ毎日悩み、疲弊していった記憶があります。

業務改善には“型”がある

この自身の経験から、多くの職場において、日々の業務に追われている現場の皆さんが腰を据えて業務改善に取り組むことは、非常に難しいということは分かっているつもりです。

時間的な余裕がないことも苦しいのですが、それ以上に、「どこをどう変えれば良くなるのか」という視点や手法を学ぶ機会がないまま、タスクだけを与えられる状況が、最も苦しいのではないでしょうか。

私は自社のみならず様々な企業が抱える「なぜ業務改善は進まないのか」というテーマについて考え、調べ、実務の中で試し続けてきました。その中で辿り着いた一つの結論は、業務改善には“型”があるということです。

業務改善は、思いつきや場当たり的な変更でうまくいくものではありません。

業務をどう分解するのか。
どこに課題があり、何を変えれば、どんな効果が期待できるのか。

こうしたことを整理するための手法や考え方、つまり「型」を用いなければ、成功はほぼ不可能です。私自身、BABOK、Lean Six Sigma、管理会計といった知識体系として整理されたフレームワークを学び、目から鱗が落ちた回数は数え切れません。

これらの知識体系は、知っている方にとっては当たり前の話かもしれません。しかし、業務改善を任されたものの、こうした手法の存在を知らずに苦しんでいる方が、きっと多くいるはずです。数年前の私も、こうした手法が存在することすら知りませんでした。

必要な「型」や「知識」を持たぬまま改善に取り組み、ゴールが見えず、効果も測れず、最終的には「やっても変わらない」という疲弊感だけが残る。同じような経験をされた方は、少なくないのではないでしょうか。

そして、そうした経験を重ねるうちに、現場のスタッフは「業務改善」という言葉そのものを敬遠し、拒絶するようになっていく。これは決して珍しい話ではありません。

改善のスタートラインに立つには?

少し申し上げにくいことですが、私は自社のスタッフに対して、

「お客様の声は非常に重要だから大切にしなさい」

と伝える一方で、

「言われたことをそのまますぐに実行するな」

とも、口をすっぱくして伝えています。

お客様の声、いわゆる VOC(Voice of Customer)は、確かに重要です。しかし、その声をそのまま行動に移しても、本質的な改善につながらないケースは少なくありません。

重要なのは、その声を CTQ(Critical to Quality)、つまり「品質を決定づける決定的な要因」まで落とし込めているかどうかです。

お客様の声は、多くの場合、表面的な現象を捉えています。それが何に起因し、何を解決すれば品質や成果に影響を与えるのか。そこまで一段深く掘り下げて初めて、改善のスタートラインに立てるのです。

これは Lean Six Sigma における定義(Define)のフェーズで定められている考え方であり、これも業務改善における一つの「型」だと言えるでしょう。

誰が業務改善の「型」を選び、ゴールを定めるのか?

さて、では、誰が企業において業務改善の「型」を選び、ゴールを定めるべきなのでしょうか。

私は、それはユーザー自身、つまり経営者だと考えています。

経営者が

  • どこをどう変えたいのか
  • 何をもって成功とするのか
  • そのためにどんな手法を使うのか

示さない限り、業務改善は前に進みません。

これは他人事として言っているのではなく、私自身も経営に携わる立場として、「決断することそのものが自分の仕事であり、責任である」という自戒を込めた考えです。

現場に「考えろ」と投げるだけでは不十分です。業務改善は、個人の善意や努力に委ねるものではなく、経営の意思として設計され、推進されるべきプロジェクトだからです。

我々のようなシステムベンダーも、業務改善のサポートは全力で行います。しかし正直に言えば、ベンダーがゼロの状態からユーザーの業務を完全に理解し、本質的な改善案を作り上げることには限界があります。

その業務を最もよく知っているのは、日々その業務を回しているユーザー自身です。だからこそ、業務を変えていく原動力は、外から与えられるものではなく、内側から生まれる必要があります。

当事者意識はリーダーシップからしか生み出せない

正直な話、誰だって変化は面倒ですし、積極的に変えたいと思う人は多くありません。「自分たちには変化が必要なのだ」という当事者意識なくして実現は不可能です。その当事者意識は自分たちのチームのリーダーによるリーダーシップからしか生み出せないのだ、と私は考えています。

ベンダーは第三者であり、残念ながらチームの一員にはなり得ません。ベンダーやコンサルがどれだけ綺麗な計画や資料を作ったとしても、現場の皆さんが「自分たちのもの」として実行し、やり切る意思がなければ、業務改善は形だけで終わってしまいます。

つまり、冒頭で触れたように、システムは導入できたとしても、本質的なゴールには到達できない、という状態です。

AI x IT x 経営の時代に

そして今、こうした「業務改善の難しさ」を前提から変えてしまう可能性を持つ技術が現れています。それが AI です。
これまで業務改善を阻んできた「考える時間がない」「分析の仕方が分からない」「欲しい情報がすぐに出てこない」といった制約は、AIによって大きく変わろうとしています。

次回は、AIの進化が業務改善に何をもたらし、我々システムベンダーの役割をどう変えていくのかについて、もう少し踏み込んで考えてみたいと思います。

 

注釈

1. 1 As-Is / To-Be業務改善や業務設計の分野で用いられる基本的な考え方。
As-Is は「現在の業務の姿」、To-Be は「あるべき将来の姿」を指す。
単に現状を把握するだけでは改善は進まず、To-Be(目指す状態)を明確に描くことが重要とされる。

2. BABOK(Business Analysis Body of Knowledge)国際的なビジネスアナリスト協会(IIBA)が策定する、ビジネスアナリシスの知識体系。
業務要求の整理、ステークホルダー分析、課題定義など、業務改善やシステム導入の上流工程における考え方や手法が体系化されている。

3. Lean Six Sigma製造業を起源としながら、現在ではサービス業やIT分野でも広く使われている業務改善手法。
ムダを削減する「Lean」と、ばらつきを抑え品質を安定させる「Six Sigma」を組み合わせた考え方で、Define(定義)→ Measure(測定)→ Analyze(分析)→ Improve(改善)→ Control(管理)のプロセス(DMAIC)で改善を進める。

4. 管理会計企業内部の意思決定や経営管理のために用いられる会計の考え方。
財務会計が外部向けの報告を目的とするのに対し、管理会計は「どこで儲かっているのか」「どこにムダがあるのか」といった経営判断を支援することを目的とする。

5. Voice of Customer(VOC)顧客の声、要望、不満などを指す言葉。
業務改善や品質改善において重要な情報源だが、そのまま鵜呑みにするのではなく、背景にある真の課題や本質的な要求を読み解くことが重要とされる。

6. CTQ(Critical to Quality)品質や成果を左右する「決定的な要因」を指す概念。
VOC をそのまま施策に落とすのではなく、「何が満たされなければ品質が損なわれるのか」という観点で整理し直すことで、的確な改善テーマを設定することができる。

7. Define フェーズ(Lean Six Sigma)Lean Six Sigma における最初の工程。
課題の背景、顧客価値、改善の目的やスコープを明確に定義する段階であり、このフェーズが曖昧なまま改善を進めると、成果が出にくいとされる。

 

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中島 恒久
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COO
中島 恒久
日本時代には、インターネットプロバイダーでのサポート業務や、コールセンター向けFAQシステムの構築を担当。2004年に永住権を取得してアメリカへ移住し、システム開発会社の起業や、大学発の表情心理学系スタートアップの立ち上げに携わった。その後、食品卸企業にてオペレーション部門および倉庫・物流部門の責任者として業務改善と組織運営を率いる。2015年に FUJISOFT America の設立に参加し、2017年より現職。グロービス経営大学院にてMBAを取得し、ITIL4 Foundation・ECBAなどの資格も保有。法人営業、管理会計、ビジネスアナリシス、プロセス改善を得意とし、幅広い経験を活かして事業運営をリードしている。

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