2025.10.09
  • 経営とIT

「分析」という言葉の解像度を上げる ── 実績報告で終わらせない“考える力”の鍛え方って?

「分析」という言葉の解像度を上げる ── 実績報告で終わらせない“考える力”の鍛え方って?

 

経営・IT・管理会計を貫く共通テーマ「分析」を、改めて考える

はじめに ―「分析」という言葉が当たり前に使われる時代に

私は社会人として20年以上働いていますが、思い返すと社会人になって間もない頃から仕事の中では頻繁に「分析」という言葉が使われていました。周囲も当然のように使い、私自身もそれを「なんとなく分かっている」つもりでいました。

ところが、2017年に経営に携わるようになってから、この言葉のあいまいさを痛感するようになります。と言うよりも、経営層の方々と接する機会が増えたことで、これまで自分が使ってきた多くのビジネス用語の“解像度”が粗かったことに気づかされる局面が多くなった、と言えるかもしれません。その中でも「分析」ほど、適当に使われている言葉はないのではないかと思うようになりました。

「比較表づくり」を“分析”と呼んでいなかったか?

私も「今期の実績と事業計画と昨年実績の比較表」を作り、それを“分析”と呼び、何の疑問も抱いていなかった時期が長くありました。それは、ただの「結果の報告」であり、なぜそうなったのか・次に何をすべきかという問いには踏み込めてはいませんでした。

先日公開したインタビュー記事の中で溝口聖規先生もこう指摘しています。

「前年同期比の増減はファクト(実績)の報告にすぎず、それを分析とするのは違うと思います。なぜそうなったのかまで踏み込む必要があります」

まさにこの「なぜ」の一歩が抜け落ちている――それが、現場で頻発する“分析の名を借りた報告”の正体だと思います。

要素に分け、意味を得る ― 真の分析とは何か

分析についてのモヤモヤとした違和感を整理したいと思い独学をしていた時期に、波頭亮氏の『思考・論理・分析』(産能大出版部)という書籍に出会いました。私にとって、この本は非常に明快であり「分析」についてのモヤモヤを晴らしてくれました。

811M3WKNI8L._SL1500_ (1)思考・論理・分析―「正しく考え、正しく分かること」の理論と実践

論理的思考という大テーマに真正面から取り組み、「思考」の原論、方法論としての「論理」、そして「分析」のテクニックという3部構成で、体系的構造的かつ平易で実践的に解説する。(「MARC」データベースより)
著者:波頭 亮氏、出版社 ‏ : ‎ 産能大出版部、発行:2004年7月15日。

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波頭氏は、分析をこう定義しています。

「分析のもっとも基礎的な一義的定義は『要素に分けること』であり、二義的定義としては『収集した情報を要素に分けて整理し、分析目的に合致した意味合いを得ること』である」

さらに、分析には三つの要件があると言います。

  1. 目的の存在
  2. 情報収集の必要性
  3. 意味合いというアウトプット

つまり、目的もなく情報を並べても分析ではない。得られた結果から意味を見出していなければ、それは単なるデータ整理に過ぎないのだ、と説明しています。

この考え方は、溝口先生との対談で語られた「分析とは因果を明らかにし、打ち手を設計するプロセス」という指摘とも完全に一致しています。

「分析」は意思決定のための“設計行為”

システム開発の現場でも、似た構造を見てきました。ダッシュボードやBIツールを導入して機能的には「見える化」を実現できるとしても、肝心の “何を見たいのか” “どんな意思決定に使うのか” が曖昧だと、そのツールは実質的には使うことができません。

そして、ビジネスアナリシス知識体系のBABOKでは、分析を「組織が変革を実現するために必要なニーズを明らかにし、推奨解決策を定義する活動」と定義しています。つまり分析とは、過去を眺める作業ではなく、次の行動を導くための設計行為なのです。

だからこそ、分析には「仮説」と「目的」が不可欠です。

仮説を立て、情報を収集し、要素に分け、意味を得る――この一連の思考プロセスこそが分析の本質であり、Excelの集計やグラフ作成などは作業ではありますが分析そのものではないのだ、ということを強調しておきたいと思います。

「分析の筋トレ」で気づいた“思考の型”

ちなみに2021年から2023年にかけて私は経営大学院で学んでいたのですが、ほぼすべての授業で「分析」が求められました。ケースを読み、仮説を立て、目的を設定し、必要な情報を集め、意味を導き出す。このサイクルを何度も繰り返すうちに、「分析とは思考の筋トレである」と実感しました。

MBAの授業で学んだのは、数値分析のテクニックではなく、“なぜそれを知りたいのか” “この分析でどんな意思決定が変わるのか” ―― 分析の目的を問い続ける姿勢であったと思います。

そしてこれは、企業の現場にそのまま当てはまるのでは?と思っています。つまり、分析の“精度”を高めるには、データの質を上げることだけでなく、思考の質を上げなければいけないのではないのか?ということです。

ITとAIが整えるのは“環境”であって“意味”ではない

さて、近年はITツールやAIの進化によって、情報収集や数値処理は驚くほど容易になってきました。しかし、どんなに便利なツールを導入しても、「何のために分析するのか」という問いを立てるのは人間の仕事です。AIは“分析作業”を助けますが、“分析の目的”は設定してはくれないのです。

だから、ツールが進化すればするほど、「考える力」が企業の差を広げる時代になるのでは?と思っています。

解像度を上げるということ

社会に出ると、よく使うけれど実際には理解が曖昧な言葉が数多くありるものです。今回のブログで取り上げた「分析」もそのひとつでしょう。数字を眺めることと、意味を見出すことの間には大きな隔たりがあります。

もし今、皆さんの職場で“分析”という言葉がなんとなく使われているなら、ぜひ一度立ち止まって、その解像度を上げてみてください。

目的を定め、情報を集め、要素に分け、意味を導く――。

その積み重ねが、企業の意思決定を確実に変えていくのだと思っています。

そして私たちFujisoft Americaは、IT・会計・ビジネスアナリシスの交点で、その「考える力」をシステムと仕組みの両面から支援していきたいと考えています。

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参考文献/関連リンク

 

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中島恒久
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COO
中島 恒久
日本時代には、インターネットプロバイダーでのサポート業務や、コールセンター向けFAQシステムの構築を担当。2004年に永住権を取得してアメリカへ移住し、システム開発会社の起業や、大学発の表情心理学系スタートアップの立ち上げに携わった。その後、食品卸企業にてオペレーション部門および倉庫・物流部門の責任者として業務改善と組織運営を率いる。2015年に FUJISOFT America の設立に参加し、2017年より現職。グロービス経営大学院にてMBAを取得し、ITIL4 Foundation・ECBAなどの資格も保有。法人営業、管理会計、ビジネスアナリシス、プロセス改善を得意とし、幅広い経験を活かして事業運営をリードしている。

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